大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所 昭和61年(わ)1970号 判決 1987年1月28日

会社役員 馬渕章

会社員 山口正中

会社員 西村昌明

右三名に対する商法違反被告事件について、当裁判所は検察官藤田呂徳出席のうえ審理を遂げ、次のとおり判決する。

主文

被告人三名をそれぞれ懲役六月に処する。

被告人三名に対しこの裁判確定の日から四年間右各刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人馬渕章は、昭和五二年二月ころから陶磁器の製造販売等を営業目的とする株式会社ノリタケカンパニーリミテド(昭和五六年四月の商号変更前の旧商号日本陶器株式会社、代表取締役倉田隆文ほか二名)の取締役総務部長として、同六〇年二月ころから同会社常務取締役総務部長として勤務していたもの、同山口正中は、同五八年四月こそから同会社総務部次長として勤務していたもの、同西村昌明は、同年七月ころから同会社総務部主事として勤務し、同六一年七月ころから株式会社ノリタケハイサービスに勤務して右株式会社ノリタケカンパニーリミテド総務部庶務課に出向していたものであるが、共謀の上

第一、一 同五九年二月二三日ころ、名古屋市西区則武新町三丁目一番三六号所在の前記株式会社ノリタケカンパニーリミテド本店事務所一階第七応接室において言同会社の一単位の株式の数(一,〇〇〇株)以上の数の株式の株主であった山田昌基こと張昌基に対し、同月二四日開催の同会社の第用二期定時株主総会において株主権を行使するに際し、議事の円滑な進行に協力すること等に対する謝礼として、同会社の計算において、現金一〇〇万円を供与し

二 同年九月二七日ころ、同所において、前記山田昌基こと張昌基に対し、同六〇年二月二七日開催の同会社の第一〇三期定時株主総会において株主権を行使するに際し、議事の円滑な進行に協力すること等に対する謝礼として、同会社の計算において、現金三〇万円を供与し

三 同六〇年一月二四日ころ、前記株式会社ノリタケカンパニーリミテッド本店事務所一階第八応接室において、前記山田昌基こと張昌基に対し、前同様の謝礼の趣旨で、同会社の計算において、現金七〇万円を供与し

第二、一 同五九年二月一二日ころ、同所において、同会社の一単位の株式数(一,〇〇〇株)以上の数の株式の株主であった田村守こと田村敏行に対し、同六〇年二月二七日開催の同会社の第一〇三期定時株主総会において株主権を行使するに際し、議事の円滑な進行に協力すること等に対する謝礼として、同会社の計算において、現金八〇万円を供与し

二 同年一月二四日ころ、同所において、前記田村守こと田村敏行に対し、前同様の謝礼の趣旨で、同会社の計算において、現金一七〇万円を供与し

三 同六一年一月六日ころ、同所において、前記田村守こと田村敏行に対し、同年二月二七日開催の同会社の第一〇四期定時株主総会において株主権を行使するに際し、議事の円滑な進行に協力すること等に対する謝礼として、同会社の計算において、現金一〇〇万円を供与し

第三、一 同六〇年七月一八日ころ、前記株式会社ノリタケカンパニーリミテド本店事務所一階第六応接室において、同会社の一単位の株式の数(一,〇〇〇株)以上の数の株式の株主であった佐藤和義に対し、同年二月二七日開催の同会社の第一〇三期定時株主総会に際し、株主としての発言・質問を差し控えたこと等に対する謝礼として、同会社の計算において、現金五〇万円を供与し

二 同年七月二六日ころ、前記株式会社ノリタケカンパニーリミテド本店事務所一階第八応接室において、前記佐藤和義に対し、前同様の謝礼の趣旨で、同会社の計算において、現金五〇万円を供与し

三 同年八月二二日ころ、前記株式会社ノリタケカンパニーリミテド本店事務所一階第七応接室において、前記佐藤和義に対し、前同様の謝礼の趣旨で、同会社の計算において、現金五〇万円を供与し

四 同六一年七月七日ころ、前記株式会社ノリタケカンパニーリミテド本店事務所一階待合室において、前記佐藤和義に対し、同年二月二七日開催の同会社の第一〇四期定時株主総会に際し、株主としての発言・質問を差し控えたこと等に対する謝礼として、同会社の計算において、現金一〇〇万円を供与し

第四、一 同六〇年七月二七日ころ、前記株式会社ノリタケカンパニーリミテド本店事務所一階第七応接室において、日東石膏株式会社の株主で、同会社と前記株式会社ノリタケカンパニーリミテドとの合併により同会社の一単位の株式の数(一,〇〇〇株)以上の数の株式の株主となった森田親弘に対し、同月二六日開催の同会社の臨時株主総会(吸収合併の報告総会)に際し、株主としての発言・質問を差し控えたこと等に対する謝礼として、同会社の計算において、現金一五万円を供与し

二 同六一年三月二五日ころ、前記株式会社ノリタケカンパニーリミテド本店事務所一階第五会議室において、前記森田親弘に対し言司年二月二七日開催の同会社の第一〇四期定時株主総会に際し、あらかじめ議決権行使書を同会社側に手交して出席を差し控えたことに対する謝礼として、同会社の計算について、現金三〇万円を供与し

もって、前記山田昌基こと張昌基ほか三名に対し、株主の権利の行使に関し、同会社の計算において、それぞれ財産上の利益を供与したものである。

(証拠の標目)

判示事実全部につき

一  被告人三名の当公判廷における各供述

一  被告人馬渕章の検察官に対する昭和六一年八月一九日付供述調書二通

一  被告人山口正中の検察官に対する同月二九臼杵同月一三日付各供述調書

一  被告人西村昌明の検察官に対する同月三〇日付、同月一八日付各供述調書

一  八神一彦(四通)、藤井二郎、鈴木賢治及び篠田真治の検察官に対する各供述調書

一  司法警察員作成の同月一四日付(検甲四号証)、同年九月四日付(謄本)、同月三日付各捜査報告書

一  株式会社ノリタケカンパニーリミテドの定款

判示第一の一、二、三の各事実につき

一  司法警察員作成の実況見分調書(同月一一日付二通、うち検甲二一号証は謄本)、捜査見分書(同年一〇月二二日付暦本)及び捜査報告書(同年九月三日付謄本・検甲七号証判示第一の一、二の各事実につき

一  被告人西村昌明の検察官に対する同年一〇月一日付供述調書

判示第一の一の事実につき

一  被告人馬渕章の検察官に対する同月一五日付供述調書

一  被告人山口正中の検察官に対する同日付供述調書

一  被告人西村昌明の検察官に対する同日付供述調書

一  張昌基の検察官に対する同月一七日付供述調書謄本

判示第一の二、三の各事実につき

一  被告人馬渕章の検察官に対する同月二八日付供述調書

一  被告人山口正中の検察官に対する同日付供述調書

一  被告人西村昌明の検察官に対する同月二七日付供述調書(検乙三四号証)

一  張昌基の検察官に対する同日付供述調書謄本

判示一の三の事実につき

一  被告人西村昌明の検察官に対する同日付(検乙三五号証)、同月二九日付各供述調書

判示第二の一、二、三の各事実につき

一  被告人馬渕章の検察官に対する同年九月二五日付、同年一〇月四日付(検乙七号証)各供述調書

一  被告人山口正中の検察官に対する同年九月二六日付、同年一〇月四日付、同月一五日付各供述調書

一  被告人西村昌明の検察官に対する同年九月二五日付、同年一〇月二日付、同月三日付(二通・検乙四〇号証、四一号証)各供述調書

一  司法警察員作成の同年九月一〇日付、同月一三日付各実況見分調書及び同月三日付捜査報告書謄本(検甲八号証)

判示第二の一、二の各事実につき

一  被告人馬渕章の検察官に対する同年一〇月一日付、同月四日付(検乙六号証)各供述調書

一  被告人山口正中の検察官に対する同月五日付供述調書

一  被告人西村昌明の検察官に対する同月三日付(検乙四二号証)、同月四日付各供述調書

一  田村敏行の検察官に対する同月三日付供述調書謄本

判示第二の三の事実につき

一  被告人馬渕章の検察官に対する同月一六日付供述調書

一  被告人山口正中の検察官に対する同日付供述調書

一  被告人西村昌明の検察官に対する同月一七日供述調書二通

一  田村敏行の検察官に対する同月一四日付供述調書謄本

判示第三の一、二、三、四の各事実につき

一  司法警察員作成の同年八月二九日付実況見分調書二通及び同月二七日付捜査報告書験甲九号証)

判示第三の一、二、三の各事実につき

一  被告人馬渕章の検察官に対する同月三〇日付供述調書

一  被告人山口正中の検察官に対する同年九月三日付供述調書

一  被告人西村昌明の検察官に対する同年八月三一日付供述調書

一  佐藤和義の検察官に対する同年九月一日付供述調割資本

判示第三の四の事実につき

一  被告人馬渕章の検察官に対する同月九目付供述調書

一  被告人山口正中の検察官に対する同月一三日付供述調書

一  被告人西村昌明の検察官に対する同月九日付供述調書

一  佐藤和義の検察官に対する同日付供述調書勝本

判示第四の一、二の各事実につき

一  被告人馬渕章の検察官に対する同年八月八日札同月一六日付各供述調書

一  被告人山口正中の検察官に対する同月一五日札同別八日付各供述調書

一  被告人西村昌明の検察官に対する同月七日付、同月一五日付(検乙五一号証)、同月一九日付各供述調書

一  森田親弘の検察官に対する供述調書謄本二通

一  司法警察員作成の同月二一巨付実況見分調書及び同月五日付捜査報告書

判示第四の一の事実につき

一  被告人西村昌明の検察官に対する同月一三日付、同月一五日付(検乙五〇号証)各供述調書

判示第四の二の事実につき

一  被告人西村昌明の検察官に対する同月一五日付供述調書(検乙五二号証)

(法令の適用)

被告人三名の判示各所為は刑法六〇条、商法四九七条一項に各該当するところ、所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第二の二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人三名をそれぞれ懲役六月に処し、情状により被告人三名に対し同法二五条一項を適用してこの裁判の確定の日から四年間右各刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、一部上場企業の幹部である被告人らが、いわゆる総会屋に対して総額八四五万円にのぼる金銭的利益を供与した事案であるが、そもそも改正商法が総会屋に対する利益供与を禁止し、総会屋のみならず、供与者の側も処罰することとしたのは、第一に、株主総会が総会屋の暗躍によって形骸化している現状を改善し、一般株主が企業の経営に参画する機会を確保するためであり、第二に、総会屋にいわれのない会社の資金が流れることは、株主、会社債権者を害するばかりでなく企業経営の公正に対する国民の信頼をゆるがせるからであるが、かかる法の目的に鑑みると、本来ならば総会屋の不法な要求を拒否し健全な株主総会を維持、運営する責務を有する被告人らが、総額八四五万円にものぼる金員を総会屋に供与し、更には当該総会屋を利用して株主総会の運営を図り、もって企業の信用を失墜させたことは、ひとりノリタケカンパニーリミテドの信用問題にとどまらず、社会に及ぼした影響も重大であり、被告人らの責任は重いといわざるを得ない。

しかしながら、被告人らは、私的利益を追及したわけではないこと、総会屋に対する金員の供与も積極的に行なったものではなく、いわば総会屋の執拗な要求に屈する形でやむなく行なったものであること、被告人馬渕章は、会社の計算において支出した金員を全額会社に対して弁償しており、流出した会社資金は壊補されていること、被告人らには何らの前科・前歴もなく、これまで遵法精神にも何ら欠けるところはなかったものであり、本件捜査に対しても終始協力的であった事実も認められること、本件犯行発覚後、報道機関による報道等により被告人らは既に社会的制裁を充分に受けたものであること、以上の事情を勘酌すれば、前記主文の量刑が相当である。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 杉山修)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例